壬戌羇旅漫録巻の上 1
蓑笠漁隠さりゅうぎょいん遺稿    坦庵居士正幹校
    [一] 大磯おほいそ懐古くわいこ
五月十日大磯の驛にとまる。きのふ用事ありて僕をば品川よ
りかへし。今朝京傳子には神奈川にてわかる。こゝろいまだ旅
になれず。このゆうべ甚だ寂寥セキレウモノサビシ 鴫立澤しぎたつさはもむかしの地にあら
ず。虎が石。またよく人のしるところなればしるさず
  祐成スケナリ全盛大磯 フ。 千里髙_ ノ虎御前。  ス ノ乳鳥ムラチドリ。只今
   ノ キ一レ  ノ
    [二] 藐姑峰は こ ねの雨
十二日のあした。藐姑峯をこゆ。今朝雨ふれり
 箱根八里 レハ スモ  ヲ 騎馬越 ヲ_ シ テ  ル昨今 皐月サツキ雨。明朝
【柱】
壬戌羇旅漫録/巻之上/畏三堂梓